今回お話を伺ったのは…
石破政権で日本経済に変化は訪れるのか
石破政権で日本経済と日本金融市場はどうなるのか?
どうにもならない。
一言でいうとそういうことである。すなわち、これまでとほぼ何も変わらないだろう。理由は3つある。
①石破政権の弱点は党内基盤が弱いこと
第一に、政権基盤が弱いと言われているが、最大の弱点は党内基盤が弱いことである。少数与党で、国民民主党などと妥協を重ねながら政策を打ち出さなければいけないという弱みがある。しかし、それは普通の交渉だ。おおざっぱに言えば、自民と公明の妥協よりも、本質的には重要でないが、短期的にはより重要な妥協をすることになる。
公明党とは、次の参議院選挙も、おそらく今後もしばらく選挙は一緒にやっていくことが決まっているし、これまでの経緯もある。野党との妥協は、目先の予算を中心とする法案審議には決定的に必要であるが、逆に言えば、それだけのことであるから、毎回毎回、一回限りの妥協である。だから、どんどん表面的には妥協をしていくが、参議院選挙までの我慢という発想で、意外と楽なのである。
したがって、妥協の本質は党内にある。党内をまとめるために、これまでの政策から大きくは動けないだろう。個別の政策もそうだし、考え方も変えられない。経済政策でいえば、アベノミクスの金融中心のGDP膨張主義から、財政中心のものに変わっただけだ。それはもはや金融政策は使う余地がないから、というだけなのだが、そうなると、アベノミクス以前の、普通の自民党の財政膨張政策に戻るということだ。だから、経済政策的には、ほとんどサプライズはないだろう。
②国民民主党の影響力は「103万円の壁」まで
第二に、国民民主党が脚光を浴びており、彼らは目先の予算審議では大きな影響力を発揮するであろうが、その先はあまり目立った具体的な成果は挙げられないと考えられる。なぜなら、先の衆議院選挙で有権者にはっきりと具体的に伝わったのは、若者の手取りを増やす、103万円の壁、ということだったが、それ以外は一般の有権者は特に何も覚えていないと考えられるからである。
選挙後、初めて国民民主党に注目した人々は(国民民主党大躍進と言っても、こちらが圧倒的多数派である)、103万円の壁しか国民民主党についての認識がないだろう。この103万の壁について、一定の成果(戦果)を国民民主党が上げた後は、明確な経済政策はないのではないか。
国民民主党あるいは玉木代表(11月27日時点)は、電力政策に非常に強い関心を持っているので、あるとすれば、原発再稼働の促進、高いコストがかかり、環境にも、考え方によっては、化石燃料よりも遙かに悪い太陽光パネル発電の後退が起きる可能性ぐらいだろう。
③地政学不安定性が高まり、経済政策どころではなくなる
第三に、社会における論点は、経済政策から逸れていくと予想されるからである。
2025年は、地政学的に非常に危険、あるいは非常に大きな動きが起きそうな年である。ロシア・ウクライナは動くし、北朝鮮も動きそうな気配である。イスラエルも終結点が来るだろう。そして、これら3つの終わりとは、平和をもたらすのではなく、禍根を残す、あるいは、さらに世界の地政学不安定性を高める結末にしかならないと見込まれるからである。
本来であれば、解決のめどが立たない、つまり、紛争当事者が妥協して合意する可能性がゼロの現状のまま、何らかの力で(放棄というのも力である)終結させるわけだから、紛争が続くよりも悪い結果が起こるのである。したがって、経済政策どころでなく、経済的な論点があるとすれば、生活コストの高騰をどう抑えるか、ということに集中せざるをえなくなるだろう。
2025年の世界経済と金融市場
さて、そうなると、世界経済はどうなっているのか。短期的には、落ち着いている可能性がある。その一方で、ロシア・ウクライナ、中東以外の地域での紛争が多発する可能性もある。特に前述した北朝鮮の暴発、崩壊の可能性もある。北朝鮮の通貨が暴落していたり、ウクライナ戦へ動員されたり、終末を予感させる出来事が複数起きている。北朝鮮だけでなく、そのほかの地域を含め、何か2025年に勃発すれば世界は大不況になるであろうが、それが2026年以降にずれ込む可能性もあるだろう。
中国の台湾侵攻は一番可能性として低い、潜在的なリスクだと思う。なぜなら、中国は足元不安定だが(政治も経済も不動産・金融市場も)、長期的にはさらに発展の余地がある地域であり、破滅的な行動にも出ないし、攻める時期ではなく守りの時期なので、動かないと見るのが妥当だろう。国民の不満を外に逸らせるための手段ならば、もう少し小さい球、一時しのぎ的な球を使うだろう。
このとき、金融市場はどうなっているか。こちらは、ブームの後の波乱が来るであろう。米国経済は軟着陸どころか、景気後退せずとなったからには、次の谷が深くなるだけである。現在の景気回復も短期にとどまり、その気配が出たところで、世界的に株式市場は、これまで長期に上がり続けてきた分、下がる余地が増えるだろう。ビットコインなどの仮想通貨は、もっとも激しく動くだろう。暴騰し、その分、下げ余地が拡大するだろう。
投資家にとって「チャンスを待つ1年」
こうなると、個人投資家としてはどうすればよいか。
あまりに古典的であるが、キャッシュイズキングである。波乱ということは買い余地が出てくるということなので、利食えるときに、利を食っておき、大きな波乱による買いチャンスを待つ1年となる可能性がある。
この予測が外れても、これまで多くの上昇で利益を得てきた方が多いであろうから、その利益を大切にし、次のチャンスを待つのがよいと思う。ここからのさらなる大きな上昇を逃す、という心配のない年になるだろうから、リラックスして、好きなものを好きなときに買えるように心の準備をしておくのがよいと思う。
機関投資家にとっては悲喜こもごもの年になるであろうが、個人投資家にはチャンスとなる1年にすることができる可能性があると思う。
※本記事に掲載されている全ての情報は、2024年11月28日時点の情報に基づきます。
※あくまでも小幡 績さん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、資本航道株式会社が取引の勧誘をするものではありません。
1967年千葉県生まれ。東京大学経済学部卒業後、旧大蔵省(現財務省)入省。ハーバード大学経済学研究科にて博士号取得(経済学)。一橋大学経済研究所専任講師等を経て、現職。著書に『すべての経済はバブルに通じる』『アフターバブル-近代資本主義は延命できるか』『ハイブリッド・バブル-日本経済を追い込む国債暴落シナリオ-』『成長戦略のまやかし』『リフレはヤバい』などがある。