本シリーズ「投資スイッチ!」では、何気なく過ごしている毎日の中にも、実は投資先や株取引について考えるヒントがあるはず!という視点のコラムをお届けします。ヒントに気づくための“スイッチ”を一緒に入れてみませんか?
Introduction
コロナに襲われ、世界中の経済活動が強制的に止められた2020年。そこからの2年弱で、株価が17倍になった銘柄があります。当時、3密を避けるレジャーとして人気に火がついたキャンプ。「ソロキャンプ」といったジャンルができるほどに盛り上がったアウトドアブームの中で、最も人気を誇ったブランドのスノーピークです。今までキャンプなどしたことのなかった人たちも、まずは形から、ということで、値段はお高めでもデザイン性の高いスノーピークの商品に飛びつきました。
ブームの波に乗り、急上昇したスノーピーク株の転落
スノーピークの業績は、2020年12月期から2021年12月期にかけて売上高は前年比+ 53.4%、営業利益は2.6倍と驚異的な伸びとなっています。まさに株価が4,490円の天井をつけたのは、2021年11月29日、21年12月期の通期予想を上方修正した直後でした。その後、2022年2月14日に発表された2022年12月期は、さらに過去最高売上、最高営業利益を更新する明るい内容でしたが、株価は高値を超えることなく、以来、ずるずると右肩下がりとなっています。
株価というのは不思議なもので、見えている数字は悪くないのに、業績の悪化を先読みするように先回りして下がっていくことがあります。この後、スノーピークは、2022年8月12日の第2四半期決算発表のタイミングで通期予想の下方修正をします。営業利益は当初の予想が52.3億円、修正後は38.5億円と26.4%も下振れました。この頃から、すでに雲行きが怪しくなってきています。
このときの下方修正の理由には
・コロナ禍ではじめての行動制限がない7月に新しくキャンプを始めるファミリー層が減少したこと
・新規キャンパー向けの高単価商品の販売が減少したこと
が、挙げられています。
このことから、スノーピークというブランドが、初心者キャンパーに支えられていたことが分かります。わたしの友人で、ソロキャンプもお手のもの、アウトドア雑誌に寄稿するほどのベテランキャンパーがおりますが、彼はスノーピーク人気に対して、当時から懐疑的でした。やたらとファッション寄りであることが気に食わなかったようです。「スノーピークのせいで、初心者キャンパーが増えて迷惑」と苦々しく言っていたことが思い出されます。
わたしはキャンプにまったく興味がないのですが、ホームセンターで、スノーピークだけが別コーナーでおしゃれにレイアウトされているのを見て、もしキャンプするならスノーピークで買おうと思っていました。ベテランキャンパーは、わたしのような似非キャンパーが許せないのでしょう。
転がるように業績悪化し、ついに株式の非公開化へ
スノーピークが「おしゃれキャンプブランド」としての地位を築くうえでの立役者は当時の社長である山井梨沙氏でした。30代の若い女性が時価総額1,500億円の企業のトップとしてきびきびと働く姿は、当時メディアでもよく取り上げられたので、記憶に残っている人もいるのではないでしょうか? とくに彼女は、アウトドア用品だけでなく、アパレル部門にも力を入れていたように記憶しています。
業績に陰りが見え始めたのとほぼ同時期に、山井梨沙氏の辞任が発表されました。道ならぬ恋による妊娠が原因と公に発表されています。これもスノーピークにとっては大きな痛手となりました。そこから業績は転がるように悪化し、直近の2023年12月期は、純利益が前期比で99.9%減の100万円という衝撃的な数字でした。
そして、その直後に、経営陣による買収を発表し、非公開化へ向けて動いています。MBO発表前の株価は726円まで下げていましたので、高値からは80%以上の下落です。ここまで我慢して株を握っていた投資家にとっては、公開買い付け価格が1,250円なので、多少は報われることになりますが、多くの投資家は途中で力尽きて、手放してしまったのではないでしょうか?
「逃げ時」に注意!スノーピーク株に学ぶべき教訓
アウトドアブームの一服で、業績に影響を受けている企業はほかにもあります。アウトドア専門店を拡大していたアルペンは、キャンプ用品の不振が業績の足を引っ張っています。キャンプではないですが、やはり3密を避けられるとして注目された釣りも一服感があり、釣具メーカーのグローブライドも、過剰在庫の調整で苦心しているようです。
一方、おもしろいことに、初心者が飛びついて買ったキャンプ用品が、中古販売店に数多く流れてきています。一度しか使っていない状態のよい商品や、なかには値札がついたままのものもあり、キャンプ用品の買取数は、前年比で10%ほど増えているとか。ここのところの物価上昇で、節約志向が高まっているので、メーカーよりも、中古販売店のほうが投資対象としても有望かもしれません。
こういったブームに乗った企業は、株価が10倍になることも珍しくないですが、ブームが去ったあとの株価下落は恐ろしいほどです。投資家としては、逃げ時を間違えないよう細心の注意が必要で、安易に長期投資と決め込むのは危険だということを、スノーピークが教えてくれました。
スノーピークのように、BtoCの会社であれば、売り場を見たり、ほかの利用者の意見をSNSで拾ったりすることも可能です。人気に陰りが出始めたら、見えている業績がピカピカでも撤退する潔さを身につけたいですね。
スノーピークは、わたしたち投資家に夢と絶望、どちらも味合わせてくれました。良い教訓として、今後の投資に活かしていきたいです。
※本記事に掲載されている全ての情報は、2024年3月18日時点の情報に基づきます。
※あくまでも藤川さん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、資本航道株式会社が取引の勧誘をするものではありません。
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